視線に気がついたのか、秋文が千春の方を向いて、少し心配そうに「どうした?酔ったか?」と聞いてくれる。
 千春は、自分のはしたない考えが彼にバレないように、すぐに視線を逸らした。


 「だ、大丈夫だよ!まだ、少ししか飲んでないもん。」
 「そうか?ならいいけど……気分悪くなったら早く言えよ。」
 「うん。ありがとう。」


 千春はドキドキした気持ちのまま、お酒に口をつけた。
 少しだけでもいいから、秋文に触れたくなってしまった気持ちを、千春はグッと我慢していた。



 食事もすすみ、4人共お酒がまわってきた頃だった。立夏が酔いに任せて問題発言をしてしまった。


 「そういえば、千春がナンパされた日ね……。」
 「わー!!立夏それは………。」
 「ナンパ………?」
 「まだ秋文に言えてなかったの~………。」


 鋭い目付きになって一気に不機嫌なオーラを発する秋文の隣で、千春は縮こまってしまう。
 結婚した後に立夏と食事に行った時の話だった。待ち合わせ場所で立夏を待っている時にナンパをされたのだ。「結婚してる。」と相手に伝えてもしつこく千春を誘い、手を掴まれそうになった時に立夏が助けてくれたのだった。

 その話しはわざわざ秋文に伝えることでもないと思い、彼には話してなかったのだ。
 が、その判断が間違えだったようだ。

 必死にその時の話しをするけれど、秋文は憮然とした様子で何も言葉を発しなかった。