「おまえは千春の何を知ってる?あいつが俺を支えるために体調を崩しながら働いてるんだ。それに、こんなおまえに好かれようにあいつは必死に自分を磨いていたんだ。なんでわからないんだ!!」
 「わかりたくもないね。あんな男好きな女の気持ちなんか。」


 秋文に胸ぐらを掴まれているというのに、駿は妙に冷静だった。興奮しているのは、秋文ひとりだけのようだ。
 きっと、プロ選手であり、有名人である秋文が暴力行為をするはずがないと思っているのだろう。
 そんな事をしてしまえば、サッカー選手としても、会社の社長としても問題視されてしまう。それはわかっていた。
 けれど、そんな事は秋文には関係なかった。

 彼女のバカにされ、こんな男に見下されているのが我慢出来なかったのだ。


 「俺がおまえを殴らないとでも思ってるのか?」
 「…………当たり前だろ。暴力行為は人間として最低だからな。」
 「最低なのはおまえだよ。……俺はサッカーよりも会社よりも、千春の方が大切なんだっっ!」

 秋文の手に力が入り、ギュッと拳を作り、手を振り上げた。駿もハッとした表情になり、すぐに目を閉じて体を強ばらせた。

 その時だった。


 「何事だね。」