先輩の言葉に、千春は目を大きくしたまま硬直させてしまう。それぐらい、衝撃的だった。
 彼は体の関係を断った理由が、何だと言うのだろうか。


 「そ、それは、どういう………。」
 「だって、あのプロ選手が彼氏になったんだ。僕との関係が続いてたとバレたら、折角の玉の輿が台無しになるもんね。」
 「そっ、そんなつもりで秋文と付き合ったわけではありません!」
 「………結婚して玉の輿になったから、仕事を少なくしたんでしょ?」


 先輩の思いもよらない言葉に、千春は絶句してしまう。

 結婚して仕事を止めると、そんな風に思われてしまうのだろうか。
 千春は、秋文が引退することを伏せながら必死に説明をした。


 「それは違います。彼のサッカー生活をサポートしたいから、自宅で仕事をしているだけです。仕事内容は簡単なものになったかもしれませんけど、量は減ってないはずです。」
 「………でも、実際は他の誰かに今までやっていた仕事を任せてるんでしょ?」
 「そ、それは………。」
 「僕は彼女として君を好きにはなれなかったけど、仕事では一目置いていたんだけどね。残念だよ。」
 「先輩、それは違うんです……!」
 「でも、みんなそう思ってるよ?」
 「え……。」
 「それじゃあ、仕事は僕たちに任せて、君は旦那様との新婚生活を楽しんで。」


 言葉を無くしてしまった千春を、ニヤリとした笑みを残して、駿はすぐに席から立ち上がり去ってしまう。



 
 千春は、先輩が去っていく足音を聞きながら、呆然と冷めたコーヒーを見つめる事しか出来なかった。

 待ち合わせの時間まで残り少ない。


 それなのに、体が動かない。
 しばらくの間、千春は何も出来ずに俯くしかなかった。