「待ちなさい、秋文。奥さんは、もう目覚めていて意識もある。たぶん、疲れからだろうという事だよ。」
 「………そうですか。」
 「ただ、一人で帰るのが難しいみたいでな、会社の人が送ると言っていたみたいだが………。」
 「いえ、俺が迎えに行きます。」


 きっぱりそう言うと、監督は微笑んだ。


 「スタッフも私も、お前ならそういうと思って、会社には秋文が迎えに行くと伝えてある。焦っておまえが事故に合わないように気を付けるんだぞ。明日は休んでいい。」
 「………ありがとうございます、監督。」



 明日の休みは、千春を休ませてあげろという意味だろうと、秋文はすぐに理解した。
 秋文は、監督やスタッフの優しさに感謝して、深く頭を下げてから、すぐに練習場を後にして彼女の元へと向かった。




 「どうして倒れるまで俺は気づかなかったんだ。」


 秋文は朝の彼女や、少し前の様子を見ても異変には気づかなかった。少し疲れていると思っても、早く寝せるように促していただけだった。
 千春は頑張りすぎるところがあると知っているのに。


 「俺のせいだ、な。」


 秋文は練習で汗をかいた体をシャワーで素早く流しタオルで吹きながら呟いた。

 タオルからは、秋文が「この香りいいな。」と千春に伝えてから、ずっと使ってくれている柔軟剤の香りが優しく漂ってきた。

 彼女が洗濯し、畳んで、準備してくれているタオル。
 これ1枚だけでも、彼女の様々な労力のおかげで、こうやって毎日使えているのだ。


 「………今、迎えに行くからな。」


 秋文はすぐに洋服に着替え、車に乗り込んだんだった。
 彼女が待っている、会社へと向かった。