冬が近づくこの季節の朝は、ひんやりとした空気になっていた。
 露天風呂には丁度いい気温で、千春は朝日の輝きと露天風呂から見える山の自然を満喫していた。
 小さめのお風呂なので、2人並んで入ると肩が触れ合う。それをいいことに、千春は頭を彼の肩に預けて、寄り添うように景色を見ていた。

 「なぁ、千春。話しがあるんだ。」
 「うん?なにー?」


 今日の観光の話だろうか、そんな風に思って、軽い気持ちで返事をする。
 次の言葉は、千春には予想外すぎるものだった。



 「俺、サッカー選手を引退しようと思う。」



 秋文のいつも通りのしっかりとした口調に、強い言葉。

 千春は、秋文の方を呆然と見つめながら、返事をするのに時間がかかってしまった。
 それぐらいに、その言葉はとても重要な事だった。

 けれど、秋文の瞳を見れば千春にはわかってしまった。


 もう、決めたことなのだ、と。