「頭撫でてくれてたの?」
 「俺がそうしたかったから。……起こしたか?」
 「ううん。気持ちよくて、いい夢見た気がする。」
 「どんな?」
 「んー、わかんない。けど、秋文は出てたよ、絶対!」
  

 千春が夢の話をすると、秋文は笑いながら聞いてくれる。
 そのなんという事もない2人の時間が、とても好きで、そして貴重なのだと千春は知っていた。
 それを彼にも伝えたくて、千春は少し体を起こして彼に自分からキスをした。 

 短くて軽いキス。自分からはあまりしないから、少し照れてしまうけれど、したくなったのだから仕方がない。


 「………おはようのキスしてなかったから。」
 「あぁ、そうだったな。」


 そう言うと、秋文もお返しとばかりにキスをしてくる。
 啄むようなキスを何回をした後、秋文は両手で千春の顔を包むように触れた。


 「昨日は悪かったな。」
 「……ううん。私も強く言い過ぎた。」
 「それと、夜も。無理させた。」
 「そっ、それは………大丈夫。私も、秋文とそのそういうのしたい気持ちあったし。」
 「……おまえに触れられてよかった。」
 「うん。」


 茶化されるかと思ったけれど、秋文は自分の気持ちを素直に話すと、もう1度だけ千春にキスをしてから布団から起き上がった。


 「せっかくだし、部屋の露天風呂に入らないか?」
 「うん!私も入りたかったの。」 


 面倒さがりの秋文が温泉に入ろうというのは珍しかったけれど、楽しみな気持ちが勝ってしまい、千春は深く考えずに、脱がされたままだった浴衣を簡単に着直して、2人で露天風呂に向かった。