恋しくば


違うのか。
苦笑しながら焼いたカルビを口に運んでいる。

「辻本って、好きな人いるの?」

文学部の子をふったのといい、今の返事といい、辻本には好きな人ができたのでは、と推測。
あたしの質問に、辻本が考える。それから、

「いる」

端的に答えた。

「そうなんだ、付き合えるといいねえ。辻本が好きになったんだから」
「……葛野はいないのか?」
「好きなひと? いないかな、自分のことで手一杯でさ……もっと要領良く生きてみたいよ。いつも目の前のことばっかりで」

それは本当のことだった。でも、口にすると嘘になった気がした。