帰宅した千歩は簡単な夕飯を済ませテレビでニュースを観ていた。


『本日午後、都内のマンションで――…』


刑事部が扱っていた事件がさっそく報道されている。

浮気癖が酷かった彼を懲らしめてやろうと、手作りチョコレートに毒物を混ぜたらしい。

殺すつもりは無かったとは言え、世の中の男子は怯えきってしまってしばらくチョコレートが口にできなくなりそうな事件だ。

「女の恨みは恐ろしい……」

つくづくそう思う。

その時、千歩のスマホに秋人からのLINEが入った。

“晩くなる。先に休んでいてくれ。”


分かっていますよ。


千歩はOKを表すスタンプを一つ返信しておく。

「あんな事件があった後だし、いらないかもしれないけれど……」

仕事用鞄から渡しそびれてしまったチョコレートの箱を取り出し、そっとダイニングテーブルに置いた。

甘さ控えめのビターチョコレート。

“お疲れ様。ハッピーバレンタイン”とメッセージカードを添えて。