「本当ごめんなさい。急いでるから…」


めんどくさい時は逃げるに限る。

その場から立ち去ろうとした時、「まぁまぁ、そんなこと言わずにさぁ」と、手首を掴まれた。


その手は逃がさないと言わんばかりに、力が強くて振り解けそうもない。


この人達知らないと思うけど、あたし今機嫌悪いの。

最高に不機嫌なの。

そんな中、愛想良くして、如月 柚姫を必死で保とうとしているの。



「ね?いいじゃん。ちょっとぐらい」


しつこい男って嫌い。

大っ嫌い。


「ちょっと、離してもらってもいいかなぁ…?」


1人は右手首を掴み、1人は後ろから両肩をがっちり掴む。そしてもう1人は、逃げられず、困るあたしの姿を不敵な笑みを浮かべ見つめる。


あぁ。こういうの本当に嫌い。


強引で。

乱暴で。

人の言葉を聞こうとしない。



まるであの男を見ているかのよう。


思い出したくもない。


過去のことなのに。



だけど、その言葉を、光景を今でも鮮明に覚えているあたしは、一生忘れることが出来ないんだと実感する。