「……梓姫」
何時間経ったか分からない。
再び開く部屋のドア。
男は先程までとは違い、穏やかな声であたしをママの名前で呼ぶ。
「痛かっただろ…。ごめんな。けど、梓姫なら分かってくれるよな?俺には君が必要なんだ。君を失った8年間、俺は……」
そっと頬に触れる男の手にビクッと体が震える。
あの日、何があったかこの男は知っている。
あたし達を傷つけ、あたしからママを奪った。
この男が、ママを……。
だけど、それを訊くということは、あたしがママでないと言っているも同じ。
この男が求めているのは、あたしじゃない。ママでないことを知れば、きっとあたしは……。
それに、あたしをママだと思い込む異常なこの男の言葉がまともなはずない。
それから何日…何週間、経ったか分からない。
だけど、あたしの中では、まるで何ヶ月も経っているように錯覚する。
鎖の長さは、2m程度で部屋から出ることは不可能。辛うじて部屋から出ることが出来るのは1日数回トイレの時のみ。
お風呂は入れてもらえないし、着替えもここに来た日と同じ太ももまでの長さがあるキャミワンピ。あの時、羽織っていた上着はどこにあるのか分からない。
食事は数日に1度、腐ったものを乱暴に床に投げられる。
正直、肉体的にも精神的にも限界だった。

