「雪!僕は君の事が好きなんだ!付き合って欲しい!」

「黙れゆるキャラ、サッサと駅前の商店街でご当地アピールして来い。そんなルックスでイケメン風に言ってんじゃねえよ。キモい」

3700飛んで7回目の失恋をした高2の夏。

「僕はゆるキャラじゃないよ!」

低身長、短足、色白でぽっちゃり、無駄に濃い眉毛とさらに無駄に長い睫毛、一重の腫ぼったい眼に低体温の所為で頬に赤みがさして、ついたあだ名が『ゆるキャラ』。

「お前がゆるキャラじゃなきゃ何がゆるキャラかわかんねえよ」

因みに名付けたのは今しがた僕の3700飛んで7回目の告白を断った【安心院 雪】(アジム ユキ)だ。僕の幼馴染にして、ハイスペック美少女である。もちろんハイスペックに『毒舌』も含まれる。

「それはゆるキャラに対して失礼だよ!ゆるキャラはもっと可愛いよ!」

「お前な、自分で自分を貶めてどうすんだバカ」

「僕は自分を客観的かつ公正に分析しているだけだよ」

『安心院』を『あんしんいん』と読んで【全然安心出来ない安心院さん】とゆう異名を持っている。由来は当然、その清楚可憐なルックスからは想像も出来ない毒舌っぷりだ。

「自分のルックスを客観的に分析出来てんならちょっとは改善する努力ぐらいしろ、クズが」

彼女は幼少の頃から老若男女問わず愛の告白をされてきた。そのことごとくを伝家の宝刀である毒舌で切り捨ててきたのだ。それはもう最強と謳われた二刀流の剣豪、宮本何某も真っ青になるほど。

「僕のモットーは楽して楽しくだ!」

「死ね」

「嫌だ!僕と付き合ってください!」

「無理」

3700飛んで8回目の失恋をしたのはやっぱり高2の夏だった。

「大体、日本でも指折りの大企業のボンボンなんだから、引く手数多だろうが。こないだだって何処ぞの深窓の御令嬢と見合いしてたじゃねえか」

「ああ、あの子ね。悪い子じゃなかったけど、雪に比べたらミジンコ以下だよ」

「お前、人の事散々毒舌とか言ってっけどお前も大概だからな!もはやゆるキャラに申し訳ないとさえ思うわ!」

「突然雨が降り出した。僕等の真上にだけ真っ黒な雲がかかっている。青空と、真っ黒な雲と、蝉の鳴き声と雨音と、溶け合って、弾けて。雪!僕と付き合ってくれ!」

「雨なんか降ってねえし何も弾けてねえよ!突然変なナレーション入れて無理矢理雰囲気作ってんじゃねえよ!バカなのか?お前はバカなのか?」

3700飛んで9回目の失恋も高2の夏だった。

「お前だから言う」

それはきっと僕しか知らない雪の本気のトーンだった。16年過ごして来た中でも数えるほどしか無い本気のトーン。

「私はもうすぐ死ぬ、だから」

「知ってる。僕は知ってる。雪の事なら何だって知ってる」

「・・・なら、わかるだろ。私はお前とだけは、空とだけは絶対に付き合わない」

寂しがり屋で、臆病で、天邪鬼で、優しくて、誰より優しくて、そんな僕の幼馴染。

「雪が死んだら、ちゃんと前を向いて歩くから。だから、それまで側に居させてよ」

「ゆるキャラの分際で生意気なんだよ!お前にそんな事出来るわけないだろ!お前が辛い時に側に居てやれないなんて嫌なんだよ!」

「大丈夫、僕は大丈夫。遠くない未来に別れがあるなら、その未来までちゃんと好きで居させて」

糸の切れた操り人形みたいだった。その場に崩れ落ち、両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。

「ちゃんと前を向いて歩くよ。大好きな雪を悲しませたくないからね」



3710回目で成就した恋は高2の夏だった。

〜完〜