そしてお昼ご飯は喉を通るわけもなく……
食事の時間が終わる頃、看護師さんがやってきて、スケッチブックに書いてあるページを見せてきた。
〜今から小児科の会議室へ行ってください。
小児科の?会議室?
小児科の……会議室。
一般患者が立ち入ることができない会議室……。
あぁ……
これなら何が起きるのか、考えなくても十分だった。
いつも肩に掛けているカーディガンを持っていくことも忘れて……部屋を後にした。
あぁ……どうしよう。
絶対に耳のことだ……。
切り出される前に言えば……なんとななるかもしれない。
小さな望みにかけて……。
トントン
『どうぞ』
会議室の中から聞こえるそっけない声。
入るのを一瞬躊躇してしまう。これはまさしく幸治さんの声。
「・・・失礼します。」
声がかすれている。
ドアを開けると、椅子に座ってドアに背を向けた幸治さんがいる。
私はただドアの前でつっ立っていた。
『座って』
そう言われても足が前に動かない。だって、幸治さんすごい冷たいんだもん。
態度も言葉も・・・その幸治さんの前に座るなんて、できない。
『早く座って。聞こえてるんだろ。』
若干キレ気味。これは早いところ謝らないとやばいやつ。
「ご、ごめんなさい」
その場で謝る。
『早く座れっ!』
ヒャッ!!
つい怖くて、手を頭の上に置いてしまった。
座れと言われても、幸治さんの怒号を聞いて足どころか、体も動かない。
椅子に座るか、このまま立ち去るか・・・。
「クシュン!」
冷房のよく効いた会議室は、ものすごく冷えてくしゃみをして、いつものカーディガンをしていないことに気づいた。
『なんで黙ってたんだよ。』
しびれを切らしたのか、幸治さんが私の方を振り返り、椅子から立ち上がって、やってくる。
思わず座り込んでしまった。
「あ、、、、、、、、、、、あの。ごめんなさい。」
声もあまり出していないので、枯れた声で謝るのに必死。
『だから、なんで早く言わないんだよ。
聞こえるなら中断してた治療だってできるんだぞ。早く退院したくないのか?』
座り込んだ私と同じ目線になるように、幸治さんも腰を下ろす。
それがどうしようもないくらい私に追い打ちをかけ、両手で頭から顔を隠した。
『おい、聞いてるだろ?』
そう言われて、私の手に幸治さんの手が伸びる。
「ごめんなさい。」
ビクッとするたびに、若干胃がキリっと痛む。
気づくと泣いていた。
『もういいから、部屋にいけ。』
そういうと、幸治さんが立ち上がり、会議室をあとにした。
私は何に怯えているのか自分でもわからず、キリっとする胃を抑えて、しばらく会議室のドア前で座り込んだ。



