振り向いた海野君の顔を見て、あ、やってしまった、と思った。


誰かお願い、数秒前に戻して。



目を真ん丸にして呆然とした顔の海野君は私が瞬きをして次に見たときには、

まるで思い切りひっぱたかれたみたいな顔をしていた。


今までいろんな女の子にひっぱたかれて引っ掻かれて、そんなことをくりかえしてきて
一度も”痛い”って顔をしたことがなかった海野君なのに。


今、”痛い”って顔をしてる。
少し赤くなった目の端と、辛そうに寄せられた眉がそれを物語っていて。




痛いくらいに冷たい空気が、耳に突き刺さって耳鳴りがした。


逃げるみたいに海野君に背を向けて走って、

それからのことは覚えていない。