慌ててその後ろ姿を追った。
初めて自分で歩いて見る街の姿はさっき座って見ていたよりも鮮やかで目に余る物だった。
途中で何度も立ち止まったり、辺りを見回したりして男の姿を見失うことがあった。
それでも男は少し先の所で私を振り返りながら待ってくれていた。
その姿を見つける度、私の中で何か温かくて苦しい物が渦巻いた。
さっき会ったばかりの私にどうしてここまでしてくれるんだろう…。
心の中はその疑問でいっぱいだった。
男の背中を追いかけて着いたのは高いビルだった。
全体が全て赤褐色で、レンガで出来ているようだった。
辺りは先程よりは灯りが少なく、所々に木々が立っていて大きな通りを挟んでいた。
その通りをいくつもの車がすごい速度で走り去っていく。
『Treat』
ビル1階の窓には大きな白い字でそう書かれていた。
なんて読むんだろう。
尋ねるわけにもいかず、ビルの表玄関から入り、階段前で待ち構えている男を追った。
丁度私と男が隣並んで登るくらいの幅の階段を1列で上り着いたのは2階だった。
開けた廊下の先にドアが立ちはだかった。
そのドアノブには窓に書かれていた文字が入った札が下がっていた。
男は有無を言わさずそのドアを開けた。
カランカランと音が鳴り、男が私に入るように促した。
私は恐る恐る足を踏み入れた。
中は黒をモチーフとしている佇まいで驚く程綺麗だった。
左手にはカウンターがあり、その後ろには沢山の食器やグラスが並べてあって淡い桃色の灯りが幻想的な世界を作り出している。
辺りを見回していると男は何食わぬ顔で中へと入り、カウンター席に向かい、腰を下ろした。
なんでここに連れてきたんだろう。
そう思いながら座って頬杖をついている男を見つめる。
見た目はすごく近寄り難くて怖かったけど、私を見ても何も言わずにここまで連れて来てくれたから、多分優しい人なんだろうけど...。
は、話しかけよう...かな。
迷っていると、カウンターを沿って奥にある黒いドアから若い女の人がやって来た。
おそらく入口のドアの音で誰かが来たことに気づいたのだろう。
その人は座っている男を見るなり眉を上げた。
女「ちょっとガム!どこに行ってたのよ!」
男「...」
女「夜のオーナーは主にガムの仕事でしょう!仕事くらいしてもらわないと困るわ!」
男「...」
ガム...?
髪を染めているのか深い青色の髪を後ろで束ねていて、ガムと呼ばれる男と同じ銀色のピアスを付けていた。
ガムよりも少し背が低いように見えるが、それでも私より遥かに高く、スラッとしたスタイルに愛らしい眉形、本当に綺麗な大人の女性そのものだった。
思わず私は見つめた。
その視線に気づいたのか、女は私に気づくと驚いた顔をしてから大きな溜息をつき、ガムを見る。
女「ガム?」
男「拾った」
その短い会話の中で女は全てを理解したようだった。
女はまた大きな溜息をつきながらも私へと向かってきた。
思わず身構えると、女は慌てて笑顔を作った。
女「怖がらないで。あなたに危害を加えないつもりなんてないから。ガムは無口だから色々と戸惑ったと思うけど、悪い奴じゃないから。もちろん私も」
私は曖昧に頷いた。
ついてきたとはいえ、やっぱり見ず知らずの人と接するのは少し怖い。
女「私は耳塚伊音(みみつか いおね)。こっちは轟智志(とどろき さとし)。ここTreatのオーナーで、私はその副をしてるの。このTreatは昼はレストラン、夜はBARという形で営業してる私たちの店」
月「ガムって...?」
ク「それはあだ名みたいなものでね。呼びやすいし、普段からそう呼んでるのよ。智志はガム、私はクッキーよ」
なんでお菓子の名前なんだろう。
キョトンとしながらクッキーの話すことに耳を傾けた。
クッキーはガムをちらりと盗み見てから、私と向き直って困ったような笑みを浮かべた。
ク「ガムとは昔からの腐れ縁なのよ。まぁここの店員皆そんな感じなんだけどね。後できちんと紹介するわ。それじゃあ、とりあえずその格好をどうにかしましょうか」
私は薄い白の長袖に布地の切れた半ズボンといかにもワケありというような格好をしていた。
他に着るものなかったし、薄汚いのも仕方が無いとは思っていたんだけれど...。
ク「あなた、名前は?」
月「...月」
苗字は言わなかった。
言えばきっとその名前の家に戻されてしまうという懸念を恐れたためでもあった。
本来は言うべきであるはずの苗字が聞けなかったクッキーは一瞬戸惑った顔をしたがそれ以上のことは言わず、同様にガムもカウンター席でじっと私を見つめるだけで何も言わなかった。
普通の人とは違う反応に違和感を覚えたが、これ以上は詮索されないことが分かり、安心した。
ク「じゃあ、行きましょうか。ガム、私は1度部屋に戻るから店番は頼んだわよ」
ガ「ん」
初めて自分で歩いて見る街の姿はさっき座って見ていたよりも鮮やかで目に余る物だった。
途中で何度も立ち止まったり、辺りを見回したりして男の姿を見失うことがあった。
それでも男は少し先の所で私を振り返りながら待ってくれていた。
その姿を見つける度、私の中で何か温かくて苦しい物が渦巻いた。
さっき会ったばかりの私にどうしてここまでしてくれるんだろう…。
心の中はその疑問でいっぱいだった。
男の背中を追いかけて着いたのは高いビルだった。
全体が全て赤褐色で、レンガで出来ているようだった。
辺りは先程よりは灯りが少なく、所々に木々が立っていて大きな通りを挟んでいた。
その通りをいくつもの車がすごい速度で走り去っていく。
『Treat』
ビル1階の窓には大きな白い字でそう書かれていた。
なんて読むんだろう。
尋ねるわけにもいかず、ビルの表玄関から入り、階段前で待ち構えている男を追った。
丁度私と男が隣並んで登るくらいの幅の階段を1列で上り着いたのは2階だった。
開けた廊下の先にドアが立ちはだかった。
そのドアノブには窓に書かれていた文字が入った札が下がっていた。
男は有無を言わさずそのドアを開けた。
カランカランと音が鳴り、男が私に入るように促した。
私は恐る恐る足を踏み入れた。
中は黒をモチーフとしている佇まいで驚く程綺麗だった。
左手にはカウンターがあり、その後ろには沢山の食器やグラスが並べてあって淡い桃色の灯りが幻想的な世界を作り出している。
辺りを見回していると男は何食わぬ顔で中へと入り、カウンター席に向かい、腰を下ろした。
なんでここに連れてきたんだろう。
そう思いながら座って頬杖をついている男を見つめる。
見た目はすごく近寄り難くて怖かったけど、私を見ても何も言わずにここまで連れて来てくれたから、多分優しい人なんだろうけど...。
は、話しかけよう...かな。
迷っていると、カウンターを沿って奥にある黒いドアから若い女の人がやって来た。
おそらく入口のドアの音で誰かが来たことに気づいたのだろう。
その人は座っている男を見るなり眉を上げた。
女「ちょっとガム!どこに行ってたのよ!」
男「...」
女「夜のオーナーは主にガムの仕事でしょう!仕事くらいしてもらわないと困るわ!」
男「...」
ガム...?
髪を染めているのか深い青色の髪を後ろで束ねていて、ガムと呼ばれる男と同じ銀色のピアスを付けていた。
ガムよりも少し背が低いように見えるが、それでも私より遥かに高く、スラッとしたスタイルに愛らしい眉形、本当に綺麗な大人の女性そのものだった。
思わず私は見つめた。
その視線に気づいたのか、女は私に気づくと驚いた顔をしてから大きな溜息をつき、ガムを見る。
女「ガム?」
男「拾った」
その短い会話の中で女は全てを理解したようだった。
女はまた大きな溜息をつきながらも私へと向かってきた。
思わず身構えると、女は慌てて笑顔を作った。
女「怖がらないで。あなたに危害を加えないつもりなんてないから。ガムは無口だから色々と戸惑ったと思うけど、悪い奴じゃないから。もちろん私も」
私は曖昧に頷いた。
ついてきたとはいえ、やっぱり見ず知らずの人と接するのは少し怖い。
女「私は耳塚伊音(みみつか いおね)。こっちは轟智志(とどろき さとし)。ここTreatのオーナーで、私はその副をしてるの。このTreatは昼はレストラン、夜はBARという形で営業してる私たちの店」
月「ガムって...?」
ク「それはあだ名みたいなものでね。呼びやすいし、普段からそう呼んでるのよ。智志はガム、私はクッキーよ」
なんでお菓子の名前なんだろう。
キョトンとしながらクッキーの話すことに耳を傾けた。
クッキーはガムをちらりと盗み見てから、私と向き直って困ったような笑みを浮かべた。
ク「ガムとは昔からの腐れ縁なのよ。まぁここの店員皆そんな感じなんだけどね。後できちんと紹介するわ。それじゃあ、とりあえずその格好をどうにかしましょうか」
私は薄い白の長袖に布地の切れた半ズボンといかにもワケありというような格好をしていた。
他に着るものなかったし、薄汚いのも仕方が無いとは思っていたんだけれど...。
ク「あなた、名前は?」
月「...月」
苗字は言わなかった。
言えばきっとその名前の家に戻されてしまうという懸念を恐れたためでもあった。
本来は言うべきであるはずの苗字が聞けなかったクッキーは一瞬戸惑った顔をしたがそれ以上のことは言わず、同様にガムもカウンター席でじっと私を見つめるだけで何も言わなかった。
普通の人とは違う反応に違和感を覚えたが、これ以上は詮索されないことが分かり、安心した。
ク「じゃあ、行きましょうか。ガム、私は1度部屋に戻るから店番は頼んだわよ」
ガ「ん」

