月(げつ)side

沢山の人が歩いている。

赤、青、黄...本で読んだことのある灯りがいっぱいでこれが『街』なのかと感心する。

明るくてキラキラと輝いていて眩しい。

人目につかないように建物と建物の間にある薄暗い場所の隅っこに座り込んでその様子をずっと眺めていた。



これから、どうしようかな。
とりあえず寝られる場所、探さないと。



立ち上がろうと顔を上げた時、目の前に人が立っていることに気がついた。

驚いてその場を後ずさる。



男「お前」



黒いロングコートを着て、長身の男。

淡い栗色の髪、耳には銀色のピアスをしていた。

当然ながら誰かも分からないその男に怯え、ギュッと手を握り締める。



男「帰るとこ、ねぇのか」



重く低い声で尋ねられた。

整った顔立ちが上から私を舐めるように見る。



正直怖いと思った。

シュッとした輪郭、斜めに上がった眉、何よりその瞳が私を捉えて離さなかった。



ど、どうしよう。



まともに人と話したことの無い私はもちろんのこと、どう男と接したらいいのか、分からずにうつむいた。

すると男の一息つく音が聞こえた。



男「戻る場所がねぇのなら来い」


月「ぇ」


男「少なくともここよりはいい」



短くそう言って男はじっと私を見つめた。

目でどうするんだ、と問いかけるように。



確かにこのままここで寝るわけにもいかない。

この人を信用してもいいのだろうか。



そんな疑問は鼻からしていなかった。



自分の体験してきたことの中できっとあれ以上の悪いことは存在しない。

どんなことがあっても多分平気。

そう思っていたから。

この人についていこう。



月「は、ぃ」



その人は足早に歩き出した。