岩井から誘われたのは初めてじゃないけど、なんで声を潜めたのだろう?

彼の行動と表情がいつもと少し違って、淡い期待をしてしまう。

だって、今日はバレンタインデーだから。

でも、バレンタインデーは女から男に想いを伝える日だから、バレンタインデーだからという意味は何もないのかもしれない。

変な期待をするのはやめておこう。それよりもどう渡すかを考えないと。

予定では帰りに「あげる」と素早く渡して、素早く立ち去る予定だった。食事に行くとなると……予定は変更かな。

食事を終えてから、ささっと渡せばいいかな。

データ入力をしながら、あれこれと考えを巡らせているうちに昼休憩となった。今日は桃華とカフェランチの予定だったと思い出し、財布を入れたミニバッグを持つ。


「璃子、チョコ渡した?」

「ううん、まだ」

「いつ渡すのよ? 大丈夫?」


カフェで日替わりプレートをオーダーして、おしぼりで手を拭きながら苦笑顔で頷く。大丈夫?と聞かれてもね……」