実は朝から喉が痛く、風邪の引き始めかもと自覚していた。だけど、喉が痛いと誰にも言っていない。なのに、なぜ?

なぜ?が顔に出ていたようで、岩井はクスッと笑う。


「朝何度かさ、ん、んんっと咳払いしてたから、喉の調子がよくないのかと思ったんだよ。今日は定時であがって、早く寝た方がいいよ」

「あ、うん。朝から喉が痛かったから、助かる。ありがとう」


岩井は彼女がいたときも彼女と別れてからもちょっとした気遣いが出来る優しいヤツで、そこがポイントだった。

そう、今岩井には彼女がいない。いない歴一年。去年の今頃は、彼女に振られたとすごく暗いオーラを纏っていた。

学生時代から五年も付き合っていて、このまま結婚するんじゃないかと周りからも思われていたが、呆気なく終止符。

岩井よりも好きな人が出来たと別れを告げられたそうで、一週間くらい落ち込みがひどかった。どんなに精神が辛くても、出社して業務をこなさなければいけないのが社会人。