あげたい気持ちはあるけれど、岩井はどんな名目のチョコであっても受け取らない。

それは彼に昨年まで彼女がいたからだ。

「申し訳ないですが、義理チョコであろうと友チョコであろうと受け取りません。彼女を不安にさせることはしたくないし、なによりも俺が彼女以外からは欲しくないからです」

岩井は入社して最初に迎えたバレンタインデーでチョコを渡そうとした女性社員全員に同じ台詞を口にした。

近くでそれを聞いた私は、渡そうともしないで彼のために用意した友チョコは持ち帰り、自分で食べた。

彼女がいても岩井はモテた。それは端正な顔立ちで爽やかな笑顔を見せるのが一番の理由だが、彼女を一途に想っているところもモテポイントとなっていたのだ。

私が岩井を好きなった理由にもそんなところは含まれているが、それよりも何気ない優しさに惚れた。


「奥田、これやる」

「えっ、あ、ありがとう」


デスクの上にポンと置かれたのは、のど飴ひと袋。