「帰りに渡すの?」

「うん、その予定なんだけど……岩井からご飯に誘われたんだよね。だから、どう渡すかをちょっと迷ってる」

「え、バレンタインデーの夜に誘われたの? それ、意味深じゃない?」


バレンタインデーの夜を特別と思うのは私だけではなかった。私は頷いて、どういう意味があると思うかと桃華の意見を聞く。

桃華は届いたばかりのコンソメスープを軽くかき混ぜてから、口を開いた。


「期待していいと思う。今日の夜に誘ってきたんだから、逆バレンタインとか?」

「逆バレンタイン? え、それって、岩井からってこと? いやいや、さすがにそれはないでしょ?」


私はあり得ないと首を横に振り、息を吹き掛けたスープを口に運ぶ。ホッとする味のスープだけど、私の心は穏やかではない。

岩井が私を?

いや、絶対ない。

そこまで期待をしてはいけない。

岩井は彼女に振られても未練たらたらだったから、まだ他の人を好きになる余裕なんて出来ていないと思うもの。