「たいしたことはない。軽い捻挫だ。後で湿布を使いの者に持っていかせよう。一晩貼っておけば明日には痛みも取れているはずだ」

さらりと金の髪が揺れ、青々とした瞳と視線が合う。

「ありがとうございます……すみません、ご迷惑をおかけして」

一度ならず二度までも手を焼かせてしまったと、アンナは自己嫌悪でハァと肩を落とした。

「こんな底が擦り切れている靴を履いているからだぞ。ドジだな」

「すみません、気を付けます……」

ドジなのは否定しないが、滑って転んだわけではない。ドジと言われてしまった手前、先ほどのいかがわしい光景を見せられて動揺して転んだとも言えず、アンナは黙るしかなかった。

「寄宿舎へ戻るのだろう? 送り届けてやる。ほら、腕に掴まれ」

袖の上からでもわかる逞しい腕を出され、アンナは遠慮がちにそっとその腕に掴まった。

「ご無礼をお許しください。国王様」

ジークはアンナの歩幅に合わせて歩き出した。歩くたびに捻挫の痛みがズキリとするが、それよりも国王の腕に掴まって歩いている罪深さに、アンナは戸惑わずにはいられなかった。

「国王様はよせ、ジークでいい」

「はい。ジーク様」

ジークの腕に添える手が震える。そんなアンナを見てジークは小さく笑みを浮かべた。
彼はランドルシア王国の尊き国王だったが、萎縮してしまうような威圧感もなく、ただ雲の上の人に触れているような夢見心地でアンナは寄宿舎まで歩いた。