「ミネアおばさん、少し椅子に座って休んだらどう?」

調理台に手をついて、トントンと腰を叩くミネアにアンナは気遣って声をかけた。

「ああ。悪いね、最近腰が痛くてあまり長い時間立っていられないんだよ」

そう言ってミネアは苦笑いしてから隅の椅子に座った。七十にしては背筋もしゃきっとしているほうだが、長時間の立ち仕事となると身体に堪えるらしい。白髪も増えて年々老いを感じると、アンナは少し切ない気分になるのだった。

(今夜は来るかな……)

トルシアンに来る常連客の中に、アンナが密かに来店を心待ちにしている人がいた。

その客はアンナが店を手伝いだした八年前から必ず一ヶ月に二回は来る。いつも深緑の外套を纏い、つばの広い帽子を目深にかぶっているため顔の表情も髪の毛の色さえも窺えない不思議な出で立ちの客だ。