「ロウか、なんだ」

片脇に抱えている大判の本にロウは伸びきった白い眉の下から視線をやる。

「読書中でしたか。その、王宮料理長ボブロの娘のことで……」

ロウは年老いてはいるがランドルシア王国の大臣であり、ジークが生まれたときから城に仕えている腹心の側近だ。ボブロの娘、と聞いてジークは視線をロウに向けた。

深海のような碧眼は美しく、目が合えば誰もが一度は息を呑む。金に輝く髪にも増してその端整な顔立ちは他国の王女たちの目を引き付けて止まない。その見目麗しい国王は頭脳明晰、剣の腕も随一で非の打ち所がないと羨望の眼差しを向けられていた。もっともジーク本人はそんな熱い視線など微塵も興味がないが。

「明日、その娘がこちらへ到着することになっておりますが……身元確認の結果、平凡な田舎の娘で特に問題はないとのことです」

ロウは伸びた髭を軽く絞るように撫でた。それを聞きながらジークは手にしている薬草を摘まんで親指と人差し指で回しながらまじまじと見つめ、匂いを嗅いだ。