舞踏会が行われている一階大広間には、すでに百人以上の紳士淑女が集っていた。貴族や隣国の王族などが煌びやかな衣服を身に纏い、奏でられる音楽によって優雅な雰囲気が醸し出されていた。アンナはまるで光の渦に吸い込まれるような感覚で、今まで見たこともない華やかな光景に感嘆のため息を漏らした。

「すごい……」

ベアトリクスの脱獄により、一時は暗雲をもたらされたランドルシア王国だったが、そんな影は微塵も感じさせないほど、皆、明るく歓談に花を咲かせている。

「ルフィナ大陸中から集まってきた王族、貴族の来賓だ。王都も今頃お祭り騒ぎになっていることだろうな」

「こんなにたくさんの人を見たのは初めてです」

まるでここだけが別世界のように思えた。皆が笑顔を浮かべ、楽し気にしているのを見ていると、先ほどまでの緊張が徐々に和らいでいった。

「では、さっそく一曲お相手願おうか。お姫様。私がこの時をどんなに心待ちにしていたか……」

紳士的な口調でジークが柔らかに笑み、手を差し伸べられる。アンナは頬を染めそっと手を組むと、もう片方の手をジークの肩に載せた。すると。