「えっ、ど、どうして……?」

そこにあるのは、ジークの髪と同じ金に輝く王家の刻印がされた指輪だった。アンナは口を両手で覆い、驚きを隠せなかった。

(確かにあの商人の男に指輪を渡したのに……なぜ?)

しかも、指輪を取り返す隙もなかったはずだ。まるで手品でも見せられているかのように、アンナは何が何だかわからず思わず何度も瞬きを繰り返してしまう。

「実は、ヨハンは表の顔は質屋の商人だが、裏の顔はランドルシアの諜報員なんだ。王家の紋章が刻印されている代物を売る行為は、この国では重罪……しかも国王のものとなるとな」

ジークはニッと笑ってその指輪を中指にはめた。

「良識のある商人であれば、こんな王家の刻印がされた物を売ろうなんて思わない。あの男の無知が幸いしたな。ひと仕事あると言っただろう? それに、あの男には余罪も追及する必要があったからな」

アンナと別れてからジークはヨハンの店へ向かった。案の定、商人の男が王家の指輪を売りつけている最中だった。そして、ヨハンの協力のもと、商人の男は捕らえられ、無事に指輪を取り返すことができた。それがジークの言う“ひと仕事”だったのだ。

「でも、もし、ヨハンさんの店に行かなかったら……」

「だから、あのとき賭けみたいなもんだと言っただろう?」

――あの指輪は必ず私の元へ帰ってくる。と言っても、これは賭けみたいなもんだがな。

ふと、ジークが指輪を渡した時に言っていたことを思い出す。ジークは自分の指輪が手元に戻ってくる可能性を見越してわざと渡したのだ。種明かしをされ、アンナはようやく理解した。

「それならそうと教えてくれれば……私、本当に心配で」

指輪がなくなって馬鹿みたいに焦っていたのは自分だけだったのだと思うと、とんだ拍子抜けだった。

(ああ、でも本当によかった……)

何はともあれ、指輪が無事に戻ってきたことにアンナはホッと胸を撫で下ろした。

「ふっ、お前のこの髪飾りが私の指輪を引き寄せてくれたのかもしれないな」

ジークは輝く髪飾りに軽く触れ、そのしなやかな指先はアンナの頬を伝ってそっと唇に触れた。

「延期にしていた舞踏会を早急に開催する。私が仕立てたドレスを着て、ダンスをしてくれるだろう? 約束だったからな」

「……はい。もちろんです」

あのとき交わした約束が現実になろうとしている。身分を気にして躊躇っていたが、今はもう、ジークを愛し抜くと心に決めた。何度も口づけをし、吐息が混ざり合うと愛し愛されているのだと実感できる。