ランドルシア王都にたどり着いたのは夕方になる前だった。

「アンナ」

覚えのある声に、ぼんやりと意識が引き上げられる。

いつの間に寝てしまったのか、アンナは活気のある王都の雑踏を耳にしながら、うっすらと目を開いた。

「起きたか? よく寝ていたな。お前も疲れていただろう」

ジークに声をかけられると、ぼんやりしていた頭がはっきりとしてアンナは飛び起きた。

「す、すみません! 私ったらつい……」

ずっと起きているつもりだったが、アンナも昨夜から一睡もしていなかったせいで強い睡魔には勝てなかった。暗い穴の中へ吸い込まれていくように、あっという間に意識を手放してしまったようだ。

ほろの隙間から外を見ると、何も変わらない馴染みのある王都の街並みが広がっていて、無事についたのだとほっと胸を撫で下ろした。すると、馬車が止まり、男が休憩のために市場へ飲み物を買いに行ったのを見て、ジークが言った。

「ここで降りるぞ。わざわざ城の前まで送ってもらう必要はない」

「わかりました」

ジークに手を引かれ荷台から降り、アンナは王都の地を再び踏みしめた。

(私、本当に帰ってこられたんだわ……)

ほんの数日の慌ただしい出来事がまるで嘘のように思え、アンナは今日も広がる青空を振り仰いだ。そのとき。

「陛下!」

王都を巡回していた数人の兵士が、ジークとアンナの姿を見つけて足早に駆け寄ってきた。

「ああ、ご無事で何よりです」

「お戻りになられて本当によかった!」

兵士たちは安堵の言葉をそれぞれ口にし、国王ジークの無事を確認する。

「すまないが、この娘を城へ送り届けてくれ」

「御意!」

ジークから命を受けた兵士が反らんばかりに背筋を正した。

「ジーク様? 送り届けるって……どういうことですか?」

まるで“自分は城へは戻らない”というような意図を感じてアンナは不安げに問う。