クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

食い下がるアンナの頭をジークは「いいんだ」と言ってそっと撫でる。

「その指輪をランドルシア王都一の質屋であるヨハンの店へ持っていくといい」

「へへ、ありがてぇ、そうさせてもらいますよ。こんな代物一体どこで手に入れたんだい? もしかして、お前さんたちも俺らみたいな商人の仲間ってわけかい」

指輪を金に換えた後のことを想像して浮ついているのか、終始ニヤつく男の顔を見る度にアンナは不快感が募るばかりだった。それに比べてジークは王家の証である指輪が渡ってしまったというのに焦りの様子も見受けられない。

「大丈夫か?」

「はい」

ジークの馬を荷台に乗せ、アンナもジークに手を引かれて乗り込むと馬車は走り出した。

ジークは深く息づいて、疼く背中の傷みに顔をしかめた。今でも相当無理をしているに違いない。決して弱音を吐かないのは彼なりの強さともいえる。

(これでランドルシアへ帰ることができる……でも)

アンナはジークの指輪のことを思うと、素直に喜べなかった。

「ジーク様、お怪我のほうは……」

「ああ、多少痛むが問題ない」

木箱に寄りかかりながらふたり並んで腰を下ろし、沈黙が続く。聞こえているのは馬車の走る音だけ。

「……ジーク様、やっぱりあの指輪を渡すわけにはいきません。私の髪でいいなら――」

「だめだ。お前が傷つくことは私が許さない。アンナ、これを見てみろ」

ジークが男に聞こえないように小声で言うと、先ほどアンナが服を取り出した木箱の中に手を突っ込んだ。そして奥の方から取り出したのは……獣の毛皮だった。

「これは?」

「これはロンという絶滅危惧種の毛皮だ。この大陸ではロンの狩猟を禁じられている。ほかにも違法取引の物をいくつも見つけた。胡散臭い男だと思って、お前があの男と話している隙に荷台の物を少し見させてもらったんだ」

「え?」

ロンは鹿に似ている動物で、生息数も三桁に届かない貴重な動物だ。もちろん実際に本物を見たことはない。

「あいつは違法商人だ。そんなやつにお前の大事な髪を渡すわけにはいかない」

「でも、私の髪なんかよりもジーク様の指輪のほうがよっぽど大事です」

思わず声を大きくあげてしまい、アンナはハッと口を押えた。

「案ずるな。あの指輪は必ず私の元へ帰ってくる。と言っても、これは賭けみたいなもんだがな」

そう言うと、ジークはほんの少し楽し気にゆるりと唇を吊り上げた。

「どういうことですか?」

「すぐにわかる」

なにがなんだかわからずきょとんとしているアンナを抱き寄せると、ジークは愛おし気にアンナのこめかみに口づけた――。