クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

利を求めるのに抜け目のない男だった。すると、男は腰に下げていたナイフを取り出してアンナにそれを渡した。

「お前さんの相方と馬を連れて行きたいなら……その長くて綺麗な髪をもらおうか」

「え……?」

若い女の長い髪は時として高値がつく。アンナの髪は枝毛もなく艶やかで、男は「高く売れるぞ」と顔をニヤつかせた。

(なんて人なの……一人分だなんて、そんなこと言ってなかったじゃない。でも……)

背に腹は代えられない。

アンナはぐっと手にしたナイフの柄を握りしめると、ごくりと喉を鳴らした。

(大丈夫よ、髪の毛なんてすぐにまた伸びる)

髪の束を手前にかき寄せ、肩の位置でぐっと掴む。震える手でナイフの刃をゆっくりとあてがい、波打つ鼓動を抑え込んだ。

「アンナ! やめろっ」

意を決したそのとき、後ろから勢いよく抱きすくめられ、弾みでナイフが手から落ちた。

「ジーク……様?」

振り返ると、ふたりの会話に気づいて目を覚ましたジークが眉根を寄せ、鋭い目つきで男を睨んでいた。

「この娘の髪の毛一本たりとも貴様には渡さん。代わりにこれを持っていけ」

ジークは王家の紋章の刻まれた金の指輪を外して男に投げた。

「おっと、ほぅ……これは」

男は指輪を受け取ると、ポケットからルーペをとりだした。そしてしげしげとその指輪を眺めると、さっと顔色が変わった。

「狭い荷台ですが、乗ってくだせぇ」

指輪を懐に入れた男は急にニコニコ顔になり、ぶっきらぼうだった先ほどの態度から一変した。

王家の紋章の入った指輪は、それこれこそ一生遊んで暮らしても有り余るくらいの値打ちがあるはずだ。その価値に気がついた男は満足げにそれを懐にしまった。

「ジーク様! いけません。あの指輪は――」

「構わない。とっとと乗るぞ」

「でも……」