クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「俺は商人なんだ。金にならねぇことはしない。タンブルじゃ、さっぱり商売にならなかったからな。怪我人がいたって、俺には関係ないだろ」

その非情な言葉にアンナは信じられない思いで愕然とする。

「そ、そんな……あの方は――」

男は山脈を越えたところにある小王国からタンブルを回ってランドルシアへ向かう途中だったと言う。肌は浅黒く、髪も黒い。ランドルシアの民ではないとわかる。

アンナはジークの身分を明かそうとしたが留まった。国の象徴である国王が深手を負った状態である。と他国の民に知られるということは、不利な情報を流すことになる。ただでさえ、国王はその身を追われる立場だ。国王が弱った隙を突かれればランドルシアに危険が及ぶかもしれない。深読みし過ぎだとも思ったが、すべての人間が善良な心を持っているとも限らない。

「どうすれば……どうすればランドルシアまで連れて行ってくれますか? 満足なお金も持っていないし、私にできることがあればなんでも――」

必死に訴えるアンナをつま先から頭までなめるように視線を動かし、男が髭を摘まみ撫でながら言った。

「そうだなぁ、それなら交換条件だ」

「条件?」

「ああ、俺はお前さんたちをランドルシアへ連れて行く。その代わりに、金になりそうなものをもらおうか、まずはお前さんの着ているドレスだな、代わりの服はそこから選んでもっていきな」

男は親指を立てて後ろの荷台を指す。

「条件を呑むなら中で着替えな。別に覗き見たりしねぇよ」

荷台に載せられた木箱に視線をやると、売れなかった服や雑貨などが入っているのが見えた。

「わかったわ」

真っ先にアンナのドレスに目をつけた男は、すぐにその価値がわかったようだった。
ベアトリクスに見繕ってもらったドレスなど、心地悪くて今すぐにでも脱いでしまいたかった。これで身軽になれると、男の申し出はアンナにとってむしろ都合がよかった。

アンナは刺繍の入った白の生地のワンピースに革のベスト、街娘が着ているような一般的な服を木箱の中から適当に選ぶと、荷台の中で早速ドレスを脱いで着替えた。

「これでいいかしら?」

荷台から降りて約束通り脱いだドレスを手渡す。しかし、男は不満げに首を振った。

「このドレスは一人分だ」

「なんですって?」