クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

ジークの寝息を傍らに聞きながら、穏やかな時間だけが過ぎていく。

(後のことはそれから考えましょう、なんて言ったのはいいけれど……)

どこまでも続く大地が目の前に広がっているのを見て、アンナは人知れずため息をついた。

人も通らない、連絡手段もない、それにジークは深手を負っている。このままではやがて日が暮れて気温も下がり再び危険な状態に陥ってしまう。

アンナは体力を奪われたジークをここから動かすこともできないでいた。

(一体どうしたら……)

厳しい現実に途方に暮れて、アンナはもう一度ため息をつく。

(いけない。ため息が癖になってしまうわ)

隣で眠っているジークをちらりと見る。

長い睫毛に、金色の髪が太陽の光に輝いている。ふと、アンナはジークがバンクラールの屋敷で療養していた時の少年と面影を重ねた。

(ジーク様に想いが通じたなんて……)

先ほどの熱い口づけを思い出すと、気恥ずかしくなってアンナはブンブンと首を振った。浮かれてはいけないとわかっていても、その喜びを押さえることはできない。するとそのとき。
遠くのほうからほろ馬車が走ってくる音が微かに聞こえて、アンナはハッと顔をあげた。

(誰か来るわ)

ランドルシアとは逆の方向から徐々に近づいて来るその馬車は、大きな荷台を引いているようだった。おそらく乗っているのは商人だ。アンナは咄嗟に立ち上がり、大きな声を張り上げた。

「すみません! 止まってください! お願い!」

すぐそばまで馬車が来ると、アンナは両手を広げてその前に立ちはだかった。

「あぶねぇなっ! いきなりなんだ!」

乗っていた商人の男が慌てて手綱を引いて馬を止めると、小柄で髭の生えた男がアンナを怒鳴りつけ「どうどう」と馬を鎮めた。

「すみません! あ、あの! どちらへ行かれますか?」

男がムッとした顔で馬車から降りてくる。そして、「ランドルシアだ」とぶっきらぼうに答えた。

「ランドルシア! お願いです。一緒に乗せて行ってもらえませんか?」

「ああ? なんだって?」

「怪我人がいるんです。私は馬に乗れないし、困っていて……」

男はうーんと唸ると腕を組んでしばらく考えていた。しかし。