鳥の囀りと木の葉がカサカサと揺れる音だけがする。風も心地よく、こんな状況でなければもっとこの時間を楽しめたのに……とアンナは心の中で思わずにはいられなかった。
「先ほどはお前に嫌なものを見せてしまったな……その、平気だったのか?」
アンナとって血はトラウマを蘇らせる禁忌だった。そのことを気にかけたジークにふと問われ、アンナはふるふると首を振った。
「ジーク様を助けたくて必死だったんです。血を見て狼狽えている暇もないくらい。もし、私を置いて……死んでしまったらと思うと……」
父の時のように、最愛の人を失う苦しみをもう二度と味わいたくはなかった。ジークをなくしたことを想像するだけで胸が抉られる思いだった。ジークをうしなうなんて、それでもなお生き続けなければならないなんて、アンナはきっと耐えられなかった。
「すごく怖かったです……」
目元がカッと熱くなり涙が滲みそうになる。身体に力が入らず、腰をあげることもできなかった。
以前、ジークの元に怪我を負った男が尋ねてきたとき、怖くて怖くて仕方がなかった。己の弱さを思い知らされ、ジークに『お前に必要なものは、どんな恐怖や不安に襲われようとも蹴散らすような強さだ』と言われたことがあった。しかし、あのときのように震えて取り乱すこともなかった。弱い自分とはもう決別したのだ。
「私が強くなれたのは、ジーク様のおかげです」
ジークへの強い想いによって、すべての恐怖や不安に打ち勝つことができたのだ。そう思うと、ジークが愛おしくてたまらなくなる。こみあげる熱いものが瞳から零れ落ち、アンナは咄嗟に拭った。
「もう泣くな。しかし、お前の泣き顔も愛おしいと思うなど……私も大概だな」
柔らかく細められた蒼眼に見つめられるとドキリと胸が鳴る。この青い瞳に溺れることができるのなら、それは本望だとアンナは心から思った。
ジークを愛している。
「先ほどはお前に嫌なものを見せてしまったな……その、平気だったのか?」
アンナとって血はトラウマを蘇らせる禁忌だった。そのことを気にかけたジークにふと問われ、アンナはふるふると首を振った。
「ジーク様を助けたくて必死だったんです。血を見て狼狽えている暇もないくらい。もし、私を置いて……死んでしまったらと思うと……」
父の時のように、最愛の人を失う苦しみをもう二度と味わいたくはなかった。ジークをなくしたことを想像するだけで胸が抉られる思いだった。ジークをうしなうなんて、それでもなお生き続けなければならないなんて、アンナはきっと耐えられなかった。
「すごく怖かったです……」
目元がカッと熱くなり涙が滲みそうになる。身体に力が入らず、腰をあげることもできなかった。
以前、ジークの元に怪我を負った男が尋ねてきたとき、怖くて怖くて仕方がなかった。己の弱さを思い知らされ、ジークに『お前に必要なものは、どんな恐怖や不安に襲われようとも蹴散らすような強さだ』と言われたことがあった。しかし、あのときのように震えて取り乱すこともなかった。弱い自分とはもう決別したのだ。
「私が強くなれたのは、ジーク様のおかげです」
ジークへの強い想いによって、すべての恐怖や不安に打ち勝つことができたのだ。そう思うと、ジークが愛おしくてたまらなくなる。こみあげる熱いものが瞳から零れ落ち、アンナは咄嗟に拭った。
「もう泣くな。しかし、お前の泣き顔も愛おしいと思うなど……私も大概だな」
柔らかく細められた蒼眼に見つめられるとドキリと胸が鳴る。この青い瞳に溺れることができるのなら、それは本望だとアンナは心から思った。
ジークを愛している。



