クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「一緒に城へ帰って、私とダンスをしてくれるのでしょう? そう約束しましたよね?」

アンナは“私も愛している”と言おうとして喉の奥で押しとどまった。言ってしまったらその言葉に安心して、ジークがこと切れてしまうのではないかと想像してしまい、怖かった。
涙が頬を伝い視界が揺れる。ふと、アンナは木の根元に生えている薬草に目が留まった。

(これは、確か……)

細長い楕円形をした葉。いくつも枝分かれしていて、花はない。

(ジーク様から借りた本の中に載っていたのと同じものだわ)

間違いでなければ、それは切傷などの治癒に即効性のある“ラメアス”という希少価値のある薬草で、すり潰して患部に塗り込むことで細胞の再生を促す効果がある。しかし、本の中には似たような植物も多く記載されていて、人体に影響を及ぼす逆効果の物も存在した。
アンナは試しにその葉を手に取り匂いを嗅ぎ、そしてひとちぎりして口に含んでみる。

「苦っ!」

思わずペッと吐き出してしまいそうになるほどそれは渋みと苦みが強く、そして後味がほんのり甘かった。

(間違いない、これはラメアスの葉だわ。そうとわかれば急がなきゃ!)

一刻の猶予もないアンナは早速、大き目の石に何枚もの重ねた葉を載せて泥状になるまですり潰していった。

「アンナ、なにをしている?」

「ジーク様、もう少しで薬ができそうなんです。待っていてくださいね」

「薬だと? この匂いは……ラメアスか?」

すり潰された葉から独特な匂いが漂い始め、ラメアスを知っているジークは「まさか、こんなところに」と驚きの声を漏らした。

(ジーク様を死なせはしない……お願いだから)

アンナは必死にそんな思いをラメアスに込め、ただひたすらジークのために願い続けた――。