クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「本当に、本当にジーク様なんですね?」

「ああ、正真正銘、私だ」

じわじわと身体に伝わる温もりに、ようやく無事にジークの元へ帰ってこれたのだと実感する。

ジークの合図で馬が徐々に失速して止まる。振り向くと、眠っているベアトリクスを乗せた馬車は、そのまま国境へ向かって走り去って行った。

「ベアトリクスはどうした?」

アンナが逃げたというのに、馬車を止めずに走り去ったのを不審に思ったジークが、怪訝な表情を向けた。

「今頃眠っていると思います」

「眠っているだと?」

「はい。ミューラン卿の別邸を出る時、私の囮になった人から睡眠薬をもらって……馬車の中で揉み合いになったときにぶちまけたんです。しばらくは目覚めないかと」

それを聞いたジークは目を丸くしたかと思えば、声を立てて笑い出した。

「なるほど、お前もなかなかやるじゃないか。レオンの部隊が先回りして国境で包囲網を張っている。囲い込み作戦だ。あいつらはどこへどう逃げようとも八方ふさがりで必ず捕まるはずだ。ミューラン卿もソフィアに任せてある」

「ジーク様、おひとりでここへ? ほかの兵士たちは……」

「ああ、ベアトリクスを確実に確保するためにランドルシアの兵士を全員国境へ向かわせた。何があろうとも私は……この手でお前を助けたかったんだ」

まだ身体が震えているアンナを安心させるようにジークがぎゅっと肩を引き寄せた。

「ありがとうございます……ジーク様の助けがなかったら、私、今頃……」

いまだに心臓がばくばくと高鳴り、抜けきれない恐怖で乱れる呼吸をなんとか整えようとする。

「すまない、怖い思いをさせたな。本当はすぐにでもお前の後を追いかけたかったんだが……」

アンナが連れ去られ、ジークは怒りで我を失いそうになる己を律した。下手に追いかけてベアトリクスを刺激し、アンナにもしものことがあれば危険だ。そう冷静に判断したジークは時間差で追跡することにしたのだった。