クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

ジークが歯を食いしばり、渾身の力を振り絞ってアンナへ手を伸ばす。

「ジーク様……」

(もし、この手を今取らなければ……私はもう一生ジーク様の温もりに触れることはできないかもしれない、会うことだって……)

(私も、私もジーク様を愛してる!)

もう迷っている暇などなかった。

アンナは覚悟を決めてドレスの裾をまくしあげると大きく深呼吸する。

(大丈夫、大丈夫……)

心臓が今にも張り裂けそうだったが、ジークの手に向かって合わせるようにアンナも手を伸ばした。そして、体勢を保ちつつ荷台の縁に足を載せてぎゅっと目を閉じると、思い切り蹴って荷台から飛んだ。恋焦がれていた人の元へ――。

その瞬間、忙しなく走る馬車の音も馬の蹄の音もなにも聞こえなくなった。

(私、ちゃんとうまく飛べたの?)

まるで風になったような不思議な感覚だった。痛みも苦しみも感じることなく、アンナの身体を包み込むのは、恋しくて常に頭の中にあった愛おしい温もり……。

「アンナ、アンナ」

すぐ耳元で名前を囁かれ、ぎゅっと固く閉じていた瞳をゆっくりと開く。

「あ……」

ジークの逞しい腕にしっかりと抱き締められているのを感じる。恐る恐る顔をあげると、すぐそばでジークがこの上ない柔らかな微笑みを向けていた。

「ジーク……様?」

「もう大丈夫だ。言っただろう? 必ずお前を受け止めると」

アンナは夢でも見ているかのような、信じられない気持ちで何度も目を瞬かせた。