クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

躊躇うことなくアンナは思い切りその小瓶の中身をベアトリクスの顔の前でぶちまけた。怯んだ隙にベアトリクスを押しのけて、なるべくその場から距離を置く。

「おのれ……これ、は……一体……」

ローラは小瓶に入っているのは睡眠薬だと言っていた。おそらくこれは原液だ。その効果はすぐに現れ、ベアトリクスはふらふらと身体を揺らした後、瞬時にその場に倒れて意識を手放した。

「なにごとです? 大丈夫ですか?」

不審な物音に御者の男からほろの布越しに声をかけられる。

「え、ええ、何でもありません。そのまま国境へ行ってください」

男は手綱を握っているため、中の様子までは窺えない。

(ジーク様は! ジーク様はどこ!?)

睡眠薬が充満する前に離れなければ、自分の身も危険だ。逃げ出すなら今しかない。
アンナは荷台の後方に身を寄せ、再び身体を乗り出す。すると。

「アンナ!」

先ほどまで遠くに見えていたジークが手を伸ばせばすぐのところまで追いついていた。

「ジーク様!」

「そのまま私に飛びつけ! 案ずるな、必ずお前を受け止める!」

先ほど、荷台から飛び降りることを考えたが、いざとなると恐怖で足がすくんでしまう。走る馬車に身体を揺らされているのか、恐怖で震えているのかもわからない。ごくりと何度も生唾を呑み込んでいると。

「アンナ、愛している」

「え……」

(ジーク様、今、なんて……?)

空耳だったのではないかと目を見開いて呆然としていると、ジークはもう一度その言葉を叫んだ。

「私は! お前を愛しているんだ! お前も私を愛しているというのなら、どうかこの手を取ってくれ!」