クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「おのれ、どこまでもしつこくて忌々しい男! もっと速度をあげてちょうだい!」

ベアトリクスが御者に叫ぶと、嘶きとともに馬車が加速した。勢いよく風が髪の毛を煽り、視界が遮られると、アンナは腕をとられてベアトリクスに再び中へ引き込まれてしまった。

「妙な真似しないでちょうだい。私ね、こう見えても気は長いほうなの。でもね、その我慢だって限界があるのよ!」

引き込まれた弾みでアンナが倒れこむと、起き上がる前にすかさずベアトリクスが馬乗りになってアンナの首に手をかけた。そして、優位を見せつけるようにベアトリクスはニヤリと唇を歪める。

「うぐっ……」

ものすごい力で押さえつけられ、アンナは喘ぐ。じわりじわりと気道が締められ次第に思考が緩慢になってきた。

(いけない、このままでは……)

ただその一念だけで力を込めるベアトリクスの手を振り払おうとする。しかし、宙を掻くだけで自分を見下ろしている恐ろしい形相にアンナは成す術がなかった。

「苦しい? どうなの? ほら、抵抗してみなさいよ。なにもできないでしょう?」

煽るように鋭い爪が首に食い込んでくる。

(私、ここで死ぬのかしら……?)

こんなところで殺されるのは不本意だ。どんなに恐ろしくても、震えて怯えていても自分が自分であり続けるために強くなることを教えてくれたのはジークだった。必ず彼の元へ帰ると、ミューラン卿の別邸を離れるときに誓った。

――ベアトリクス様の部屋からこっそり盗んできた睡眠薬です。

――なにかあった時に使ってください。

意識が朦朧としてきたとき、ふと、ローラの言葉が浮かんだ。そして、胸元に忍ばせてあった睡眠薬の存在を思い出した。

(そうだわ……!)

ベアトリクスが首を絞めることに気を取られている隙に、アンナはそっと胸元から小瓶を取り出した。震える手で蓋を開け、かろうじて細く息を吸い込むとキュッと鼻をつまんで口を閉じる。

「あなた、なにを……あぁっ!」