クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

ベアトリクスはアンナの長い髪の毛をむんずと鷲掴みにすると、そのまま引き上げた。

「い、痛いっ! 放して!」

「生意気な子ね、この私に口答えするなんて。このまま大人しくしていられないのなら、そうねぇ……」

楽し気にどんな恐ろしいことを考えているのか、徐にベアトリクスがさっとナイフを取り出した。

「大丈夫、傷つけたりなんてしないわ。そんなことしたら、商品にならないもの……でも、私を怒らせたらその保障はないわよ?」

ギリギリと髪の毛を掴み上げられ、アンナは顔を歪める。

「放し――」

そのときだった。アンナは馬車の後方から微かに馬の嘶きが聞こえたような気がした。

「アンナーーッ!!」

(え……?)

こんなところでベアトリクス以外、自分の名前を呼ぶ者なんかいない。しかし、聞こえてくるのは確かに……。

「アンナーーッ!!」

その声は徐々に鮮明になる。すると、ガタン!という大きな音とともに荷台が揺れた。車輪が石に乗り上げ、ベアトリクスが体勢を崩した隙にアンナは掴まれた手を振りほどいた。そして、転がるように荷台の縁にしがみついて顔を出すと、目の前の光景にその瞳を大きく見開いた。

まるで夢でも見ているようだった。はたまた幻か。視線の先に、ジークが漆黒の馬にまたがり、速度をあげて馬車と距離を縮めていくのが見えた。深紅のマントが大きくはためいている。

「ジーク様……ジーク様っ!」

ここにいると知らしめるようにアンナは声を張った。しかし。