クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

ガタガタと足場の悪い道を進み、揺れる荷台でベアトリクスは木箱の中からこぼれた林檎を手に取ると、それをひとかじりした。

「あなたも食べる?」

「いりません」

「そう? とっても美味しいのに」

アンナはへたり込んで、なるべくベアトリクスに目を合わせないように俯いていた。御者の傍らに置かれたランプの灯りがうっすらと荷台の中を照らしている。その薄暗さが、ベアトリクスの不気味さを助長しているようだった。

「国境って、あとどのくらいなんですか?」

沈黙の中、アンナが重たい口を開いて尋ねると暇を持て余していたベアトリクスがパッと顔を明るくした。

「そうねぇ、明け方には着くわ。まずは貴族の集まる競売へ行って……あ、私ね、タンブル王国には何人か知り合いがいるのよ、あなたにも紹介するわね。ちゃんと売り込まなくちゃ」

目を輝かせて語るベアトリクスにアンナは怒りというよりも哀しみに近い感情を抱いた。やはり、ベアトリクスは普通の人間とは違う。そのことが今、はっきりとわかった。身を切られるような深い悲しみがどんなものなのか、彼女にはまったく想像がつかないのだ。情操が養われていないのではなく、ある一部分だけが完全に欠落している。

(どうにかして逃げ出す機会を見計らわないと……このままでは、本当にタンブル王国に連れて行かれてしまうわ)

こみあげる焦燥感にアンナはぎゅっと手を握りしめた――。