一階から急かすようにミネアの声がして返事をすると、アンナはもう一度自分の部屋を見渡した。十歳からずっとこの部屋で生活をしていた。今度はいつ戻って来られるかわからない。そう思うとほんの少し名残惜しい気持ちになる。

寄宿舎での生活に備えて荷物はすべてそろった。と言っても、普段いつも使っている小物や服ばかりでさほど大きな荷物でもない。麻の袋に入れられた荷物を肩にしょいこんで下へ降りると、ボブロとミネアがすでに玄関ドアの前に立っていた。

「送っていってやれなくてすまねぇな……気を付けていくんだぞ、変な人に声をかけられても着いて行くんじゃないぞ」

そう言ってボブロがポンっと肩に大きな手を載せると、じんわりと温かくてつい鼻の奥がツンとしてしまう。

「もう、ボブロおじさん。私、子どもじゃないんだから大丈夫よ」

アンナがにこりとするとボブロはそれでも心配げに小さく笑みを返した。