アンナは十歳のとき、子どもに恵まれなかった夫妻の養女となり、トルシアンを手伝い続けて八年になる。天涯孤独の身だが、今は亡き父と唯一親交のあったローランド夫妻をアンナは実の親のように慕っていた。

「いらっしゃいませ!」

「よう、アンナ。元気か? 今夜の料理ひとつな」

「はい!」

濃茶のぱっちりとした目を輝かせにこりとする。男女問わずこの笑顔を見ると皆、仕事の疲れも吹き飛ぶのだ。

満月の灯りを頼りに今夜も多くの客が店にやってきた。

仕事終わりでおなかを空かせた人たちが、今夜の料理を楽しみにそれぞれ席に着く。十人ほど入ればもう満員御礼で、メニューが一品しかなくても忙しなく息をつく間もなかった。先ほどまで静かだった室内も、あっという間に客の話し声や笑い声で溢れだす。