クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「ジーク、久方ぶりだというのにずいぶんな言い草ね。はぁ、ロウに伝達させたのは失敗だったわ、あの役立たず」

ベアトリクスは身体の中で滾り始めた怒りにギリッと歯を鳴らした。

「たとえ国王であっても手加減はしないぞ」

ミューラン卿が手をあげて合図すると、馬車を囲っていた手下たちがひと暴れするため、それぞれ剣やこん棒を手に戦闘態勢に入る。その場の空気が一気に張り詰め、ジークは諦めたようなため息をついた。

「どうやら本気で私を怒らせたいようだな」

ミューラン卿の手下たちは盗賊のような身なりで、この時を援護するようにとミューラン卿に金で雇われた者だった。どれも屈強な体躯をした男たちばかりで、総勢三十人以上はいる。それに対し、ランドルシア兵はその半分。兵士たちは武道の訓練を受けているが、人数では負けていた。戦況に陰りが射す。

「やぁぁ!!」

そのとき、威勢よく雄たけびをあげながら不意を突いて火ぶたを切ったのは、ジークの後ろにいた大柄な男だった。力任せにこん棒を振り回し、ジークめがけて振り下ろして来る。

「ジーク様!」

アンナは口元を両手で覆い、無意識に彼の名を叫んでいた。ジークは迫る男の気配にいち早く勘付いて、ひらりと身をかわす。それと同時に一斉にミューラン卿の手下たちがジーク一点に襲い掛かった。

「お願い! やめて!」