クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

はじめは重くて動きづらいドレスだったが、一日中着ていたおかげでなんとか小走りできるくらいには慣れてきた。

「遅かったじゃない。私、待たされるのは嫌いよ」

すっかり機嫌を損ねてしまったベアトリクスが、裏口の前に停めてあるほろ馬車の前で口をへの字に曲げて立っていた。

「申し訳ありませんでした」

素直に謝るとベアトリクスは「わかればいいのよ」とアンナの頬をすっと撫でた。いつでもベアトリクスの手は生きている人間の手とは思えないくらい冷たい。ジークのあの温かな手が恋しくて、アンナは悲し気に睫を下げた。

「さ、早く荷台へ乗って」

武装した何人ものミューラン卿の手下たちが武器を片手に馬車を取り囲んでいる。ミューラン卿もすぐそばにいて逃げ出す隙もない。

(ああ、ジーク様……)

心の中で嘆きながら背中を押され、アンナが荷台へ乗ろうと一歩踏み出したそのときだった。

「待て! ベアトリクス、そこまでだ!」

凛としたその声にアンナは弾かれるように顔をあげ、暗闇の中で視線を巡らせる。

(この声は……まさか――)

ジークのことを考えていたせいで幻聴が聞こえたのかもしれない。アンナはぎゅっと目を瞑り、もう一度その瞳を開いた。すると――。