クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

ドアの向こうから侍従の急かす声がしてごくりと息を呑むと、娘がポケットから透明の液体が入った小瓶を取り出し、素早くアンナの手に握らせた。

「あなたにこれを……」

手渡されたのは手のひらにすっぽり収まるくらいの小瓶だった。アンナは訳が分からずそれをじっと見つめる。

「これは?」

「ベアトリクス様の部屋からこっそり盗んできた睡眠薬です。なにかあった時に使ってください。うまく逃げきることができれば、あなたは奴隷なんかにならなくて済むはず」

「え……」

こんなことをして、もしベアトリクスに知られたらこの娘はひどい罰を受けるだろう。しかし、それを承知しているように、娘は初めてにこりと微笑んだ。

「妹に食事をありがとうございました。私はリディアの姉のローラと申します」

言われてみれば、笑った顔がどことなくリディアの面影に似ている。

「食事って……なぜ、それを?」

アンナはギクリとして目を見張った。

「あの子、さっき口の周りにパンくずをつけて戻ってきたんです。気がつかないわけないですよ。私に隠しごとをしないでと言ったら渋々全部話してくれました」

そのときのリディアの顔を思い出したのか、ローラがクスッと笑った。その表情を見て、ローラは決してリディアを咎めなかったのだとわかった。