そして一週間があっという間に過ぎた。

トルシアンの常連客はアンナが城で働くことを心から喜んでくれていたが、やはりアンナの料理が食べられなくなることを残念がっていた。昨夜はいつも以上に客が押し寄せ、城へ行く前にどっと疲れてしまった。それに気が立ってどうしても眠れず、夜中に何度も目が覚めた。気がついたら東の空が白んで、朝を迎えてしまった。

慌ただしくトルシアンで最後の朝の仕事を終え、いつもならこれから少し勉強して昼食をしてから夕方の営業のための仕込みをするが、今日は違う。

アンナは足首まである少しくたびれた茶革のブーツを履き、紐を結び直す。城へ行くのだから少しはましな格好をと思い、クリーム色のブラウスに黒のベルベットベストを着て、ひざ下丈のスカートという装いで鏡の前に立っていた。

(よし! アンナ、今日から頑張るのよ)

両手の拳を胸の前でぐっと握る。

「アンナーっ! 準備はできたのかい?」

「はーい! 今行くわ」