クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

(とうとう夜になってしまったわ……)

日が沈み、空が藍色に変わってもアンナは成すすべがなく絶望に打ちひしがれていた。ジークのことを考えると、今にも涙腺が緩んで泣き出してしまいそうになる。

アンナはテーブルの上に広がる先ほど用意された夕食に視線を向けた。

赤いパプリカソースを敷いた皿の真ん中に、バターソテーした白身魚とレモンが添えられている。かぼちゃのスープもある。バスケットには窯でこんがり焼いたパンが入っていた。まだ温かさを失ってはいないようだが、呑気に食事をする気力も起きない。

(はぁ、こんな状況じゃなきゃ、喜んで食べるのに……喉にも通らなそうだわ)

不穏な空気の漂う屋敷の中で、こんなにも美味しそうな料理が出てくるのが不思議だった。

「あの、お食事はお気に召しませんでしたか?」

ひとくちも手をつけていない食事を見て、侍女が心配そうに眉をさげた。侍女と言っても、まだ年端のいかない子どもで身体も痩せている。声も幼い。

(可哀そうに……ろくに食事を与えられていないんだわ)

少女の体つきを見るとアンナは気の毒に思えてならなかった。

「ごめんなさい。食欲がないの……もしよかったら、あなた食べない?」

先ほどから少女の腹がぐうぐうと鳴って、口の中に広がる唾を何度も飲み込んでいるのに気づいていた。アンナに言われて少女はブンブンと首を振るう。

「そ、そんな……ご主人様に叱られてしまいます」

「大丈夫よ。ここで食べてしまえばわからないわ、誰にも言ったりしないから」

アンナがにこりと笑うと、少女は戸惑いつつもあどけない顔を綻ばせた。
少女はリディアと名乗り、姉妹で一年前からこの屋敷に従事しているとアンナに話した。