クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「今夜、ランドルシアの国境を越えてタンブル王国へ向かうことになっているのよ」

「タンブルですって……?」

ランドルシア王国とタンブル王国の堺には、深い峡谷がある。全長一キロメートルの大橋を渡った向こうがタンブル王国だ。

「ご存知かしら? タンブル王国は金持ちの集う国なの、あなたもきっと裕福な殿方に買われて幸せな生活ができるわ、私たちにもお金が入るし……ふふ、お互いに損はしないわね」

タンブル王国の生活水準は高く、人口はランドルシアよりも半分ほどで貧困層もない。国全体が潤っているように見えるが、多くの金持ちは奴隷を他国から買いつけて自分たちのいいように扱っている。一見平和に見えても、ランドルシア王国以上に裏では闇が渦巻いているのだ。だから、あまりいい噂は耳にしない。

「そろそろお茶の時間だわ。じゃあ、大人しくしていてね」

ベアトリクスが部屋を出て行っても、アンナはひとりで放心したまま動けなかった。悪夢のような現実に、今にも押し潰されそうになる。

(なんてこと……私、このままでは売られてしまう。なんとかしなきゃ……でも、どうすれば……)

この部屋は二階のようで、窓から逃げ出そうと試みたが伝って下りられそうな木もなくそれは不可能だった。尚且つ外から鍵を掛けられていて、あれこれ脱走の算段を思い巡らせていたが、結局ここをひとりで抜け出す方法をみつけることはできなかった。