クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす

「私を……私をどこかに売るつもり?」

「あなた、グレイグ・ミューランがどういう男なのか……ご存知?」

ミューラン卿は昔から貴族の中でも力のある家柄だ。しかし、一体なにを生業にしてそこまで力をつけてきたのかは知らない。
考えを巡らせると、アンナはひとつの可能性にハッとした。

「法の目を掻い潜って奴隷売買をしている貴族っていうのはミューラン卿のことだったんですね」

「グレイグはあくまでも貿易商よ。表向きはね」

奴隷市場は取り締まってもなかなか撲滅できないと、以前ジークがぼやいていたのを思い出した。ミューラン卿が厄介な貴族だということも……。

若くて綺麗な女、力があって重労働に使えそうな男は高値で売れる。まさか、自分がその対象として売られる日が来るとは思いも寄らなかった。

「商品を国外に送っているのは、物だけじゃない……そういうことですか?」

「なかなか察しのいい子ね。でも……奴隷は物、商品よ。最近じゃ、ジークに目をつけられて思うように商売ができないみたいだけど、おかげでミューラン家は赤字よ。でもあなたが高値で売れれば話は別」

ベアトリクスは含みをもった口調でクスクスと笑っている。「あなたはどうすることもできない」と言われているようでアンナは唇を噛み締めた。