「私の質問には答えないくせに、自分の質問には答えろというの?」

ベアトリクスは呆れたように腕を組み、アンナを見下ろした。

「ふふ、それでも私は構わないわよ。あなたを気に入っているから教えてあげる。ここはミューラン卿の別邸よ」

「ミューラン卿ですって?」

かつては父、コンラッドとも交友関係にあったがミューラン卿は薄情者だ。それに、マーカスへの仕打ちも、思い出すだけで苛立ちが沸き起こった。

「さ、お喋りはおしまい。いつまでもそんな小汚い恰好していないで、早く湯浴みをして着替えてちょうだい」

ベアトリクスは手を叩いて合図をすると、三人の侍女が部屋に入って来た。

(とにかく、今のところは大人しくして様子をうかがおう。大丈夫、きっと大丈夫だから)

アンナはそう自分に言い聞かせ、侍女に連れられて湯浴みのために部屋を出た。