「私は、ジーク様にはふさわしくありません」

「なぜだ?」

抱き寄せる腕に力がこもる。そのたびに胸が張り裂けそうになった。

(私はジーク様を愛している……本当は、愛しているんです)

触れている身体を通してこの想いが伝わるのなら……。とアンナはジークの腕にぎゅっとしがみついた。

「お前でなければだめなんだ……もう一度聞く、私とダンスをすると約束してくれ」

徐に顔をあげると、ジークの真摯な眼差しが見据えている。アンナはしばし逡巡し、そして小さく頷いた。

「……はい。わかりました」

「いい返事だ」

にこりと笑んで、愛おしげに見つめるジークの瞳を見つめ返す。アンナは約束をしてしまった罪の重さよりも、愛おしさが勝っている自分に浅ましさを覚えた。

(ああ、私……ジーク様がこんなにも愛おしいと思うなんて)

“愛している”そう思う気持ちは自由だ。しかし、それを告げていい人とそうでない人がいる。

(そんなこと、わかっているのに……)

心の中で渦巻いているもどかしさに、アンナは俯いて人知れず唇を噛んだ――。