「もし、私がこのドレスを着て舞踏会に出たとしても……その、お食事のマナーだって細かいところはもう覚えていませんし」

「それは私が教えよう」

「それに、肝心なダンスだって……小さい頃はお稽古がありましたけど、たぶん今はできません」

「それも私が教えよう」

アンナの不安をひとつひとつ消していくと、ジークが「まだほかには?」と目で訴えてきた。そんなジークにアンナはついクスッと笑みがこぼれた。

「なんだ?」

「ジーク様、教えて頂けるのはありがたいんですけど……舞踏会が延期じゃ、お話になりませんよ」

アンナにそう言われ、ジークは苦笑いと共にアンナを抱き寄せた。

「ならば、約束してくれないか? ベアトリクスを捕え、すべて終わったら舞踏会で私とダンスをすると」

「それは……」

本当は喜んで頷きたかった。しかし、国王とダンスをするなどと身分がそぐわない。ジークを想う気持ちが“身分”という名の壁にぶち当たる切なさに、アンナはやるせなさを感じずにはいられなかった。