「大丈夫か? 少し座って休め」

「はい。なんだか安心したら気が抜けてしまいました」

雲の上を歩いているような感覚で、ジークに手を添えられながらベッドの縁にようやく腰を下ろすと優しく背中をさすられた。すると、不思議なことに徐々に気持ちが落ち着いて、「ありがとうございます」とアンナは小さく微笑みを浮かべた。

ふと、窓の外を見上げると夜空の目のような丸い月が柔らかな光で窓辺を照らしていた。

(今夜は満月だったのね……いまさら気がつくなんて、よっぽど余裕がなかったんだわ)

アンナは自分が情けなくてしゅんと肩を落とした。

「どうした?」

下げた肩をそっと抱き寄せると、ジークは柔らかに笑んだ。

(恐怖や不安を蹴散らすくらいの……強さ)

ジークに言われた言葉を反芻する。今の自分は弱い。いつまでも恐怖に耐え忍んで誤魔化していては駄目だと気づかされた。

(でも、ジーク様と一緒なら大丈夫)

すぐ隣にはジークがいる。それだけでも心強い。

「私、もっともっと強くなります。ジーク様に負けないくらい」

いつもでも彼の背中を追いかけていたい。たとえこの気持ちが届かないとしても、ずっと見つめていたい。そんな想いが沸き起こり、揺れる瞳でジークと視線を重ね合わせた。

まるで愛おしいものを見るような眼差しに、アンナはどことなく落ち着かない気持ちになってしまう。

「まったく、お前は無防備すぎる。そんなふうに見つめるなんて」

「え? そんなふうって……?」

「男を誘っている目だ」

顎に指をあてがわれると、言葉を発する隙もなく唇を奪われた。